地域に生きる Vol.1 NPO法人森の番人の取り組み

昆虫が好きな私は、少年時代そのままに山へ出かけ、道中イノシシやシカ等の野生動物と出会っては、癒しや感動をもらっている。
しかし、可愛い可愛いと喜んではいられない。なぜなら、野生動物に関する被害のニュースを聞く機会が多いからだ。

農作物の被害だけでなく、市街地に出現することもしばしば。
先日京都のホテルにイノシシが侵入し、人を傷つけたニュースも衝撃的だった。
そんな被害が出る要因は多々あるのだろうが、都会育ちの私からするとどこか遠い世界のような話に聞こえていた。しかし、現実はテレビや新聞の中の世界ではなく、高梁でもごく当たりまえに起きているのだ。
そういった問題に正面から向かい合い、対策に踏み出している人がいる。
今回は獣害対策に取り組む、「NPO法人森の番人」の松森さんに話を伺った。

松森さんは土木建築を本業とし、その傍らで狩猟を始めた。今年で狩猟を始めて43年になる。現在はイノシシの駆除を主に活動している。

シカの角。角だけを見てもその大きさにびっくり。

野生鳥獣による農地の被害に頭を悩ましている農家も少なくないと聞く。
地域の高齢化に伴い、耕作放棄地の増加や狩猟人口の減少も被害を拡大させる要因になっている。高梁市役所でも鳥獣対策室が立ち上がるなど事態は深刻な状況だ。
そんな問題を少しでも解決しようと「NPO法人森の番人」を立ち上げた。

今は狩猟者の活躍で駆除できているが、2、30年経った時に続けられているとは限らず、後継者が必要になる。
若い世代の狩猟免許取得や技術向上のサポートは惜しまない、と語る松森さん。
今、松森さんのサポートで十数名が免許取得を目指している。

罠の構造や仕掛け方まで細かく教えてくれた。シンプルな構造の割に発動の勢いには驚いた。

動物の駆除は可哀想だが、共生するために悪さをする個体は仕方なく獲るしかない。しかし、苦労して獲った肉も衛生的な加工施設で解体しない限り市場に出せず、これまでは自ら食べるか、廃棄していた。
これでは、いつまでたっても後継者が増えるはずもないと、加工施設を立ち上げることを決めた。加工施設は9月稼働を目指しており、完成すれば製品にして、イベントや祭り事で、加工した食肉を通して地域への還元を考えている。

「狩猟は動物との知恵比べ。動物と駆け引きをする所に楽しさがある。初めて自分で獲ったときは感動で足が震えた。」と狩猟の奥深さを笑顔で語る松森さん。
獲れる楽しさを知ってほしいから絶対に獲れる方法を教えると情報提供は惜しまない。

オリに入ったイノシシ。このように入るよう設置できるかが勝負どころ。

最後にこれから免許をとる人へ。
罠とオリで獲ることが基本的な入門なので罠用免許を取得してほしい。
罠から始まり、解体し食べるまでの一連作業を覚えることが大事。
自分が獲ったものを自ら食べる。ここに感動が生まれるんですよ。

適切に処理して美味しく食べるのも狩猟の醍醐味の一つ。

命を殺める仕事は敬遠されがちだが、「誰かがやらないといけない」という考えの下で活動を始めた。「1匹獲ることで被害は大きく減る。少しでも被害を減らし、農家を守りたい。」力強く語る松森さんから地域を守る覚悟を感じた。
地域の人が安心して農業を続けられるよう獣との一線を守っている。
そういった人や団体がいるからこそ動物と共存できているんだと改めて実感した。