田舎での生活について、「遊ぶところがない」「楽しみがない」というイメージを抱いている人は少なくないのではないだろうか。
ところが実際、田舎にも楽しみが案外ある。例えばそれは畑仕事かもしれないし、あるいは野生の動植物との触れ合いかもしれない。
ともすれば野外活動ばかりが取り沙汰されがちであるが、それだけではない。文化活動も活発なのだ。
本稿では、高梁市内で開催されている、数ある文化的イベントの中でも、11月26日に宇治町で開催された「ふれあいの集い」について紹介したい。
ふれあいの集いは宇治町の文化祭ともいえるイベントで、地元住民の創作作品を中心に展示が行われ、長きにわたり住民に親しまれてきた。
展示中、会場である宇治小学校体育館には、各々が磨いてきた技術で作り上げた作品がいくつも並ぶ。
展示だけではない。ふれあいの集いではステージパフォーマンスも行われる。もちろん、これも出演者はみんな宇治町民で、歌や踊りなど、日頃の練習の成果を発揮する。
その中で一つ、変わり種の演目がある。それが劇だ。
地元の有志で構成される劇団の名前は「劇団五季」。臆せずパロディに走ることができるのも、「素人集団」の強みの一つ。
もともとは、近年多発する詐欺の防止・啓発を目的として演じられたものだった。しかし、ただまじめな劇をやってもおもしろくない。発起人の考えで、地元で人気のテレビ喜劇を研究し、笑って楽しめる劇を作り上げた。
劇は好評をもって迎えられ、出演者を増やしながら二年、三年と続き(ロングラン!)、ふれあいの集いの名物になりつつあった。
そして四年目の今年は、これまでの劇とは趣向を変えて、単なる喜劇では終わらない新しいものを作り上げようと試みた。
ところが、そこで問題が発生した。人が集まらない。
過去、出演した劇団員の都合がのきなみあわなかったのだ。出演できるのは、わずかに二名。それも、団員の中では新参者といえる、比較的年期の浅い二人だった。
しかも、新機軸を打ち出して制作を開始した脚本がなかなか仕上がらない。
今年の劇は中止か・・・。一時はほとんど諦めたと、今回劇の脚本を担当した劇団五季 副座長・H氏は語る。
「もうだめかと思いました。座長も今年は出られなくて、僕が一人で脚本を書いたんですが、なにをどうすれば良いのやら」
自分を含めたった二人の出演者ではできることも限られる。
更にもう一つ、H氏は落語に興味があり、これまで市内イベントで披露してきた。ふれあいの集いでも出演することになっており、どちらの作業も進まず悩んでいたのだと言う。
しかしあるとき、天啓が閃いた。
「落語を劇にしたらどうだろうって思いついたんです」
落語はもともとは一人語りの芸能だ。これを劇に落とし込めば、二人だけの出演者でも形になるのではないか。
地元で根付きつつある文化=劇と、移住者が広める新しい文化=落語が出会った瞬間だった。
演目は、地元住民からのリクエストに応じ、「ラーメン屋」に決まった。5代目古今亭今輔が作り上げた、人情味あふれる新作落語だ。
「そう決めたらあとは一気呵成でした。僕は三年前に宇治に移住してきたんです。もう一人の出演者のYさんも、宇治に来て二年目の移住者。移住者二人で、宇治に新しい劇を見せてやろうって思って(笑)」
そして迎えた本番。
クスリとおかしく、小気味よいテンポで進む会話を軸に、サゲでほろりと泣かす展開に観客(=地元住民)も釘付けだった。
「楽しかったです」H氏の顔は晴れやかだ。
「大変なこともありますが、みんなに喜んでもらえるからやり甲斐があります。こうやって自分を表現できるのも嬉しいです」
もう一人の出演者、Yさんはこう語る。
「こうやって自分を表現できるのは楽しいね。(都会ではこのような機会はなかったという)これからも宇治のため、宇治の未来のためにできることがあれば積極的にやっていきたい」
田舎には個人個人が自分を表現できる、新しい文化の可能性が眠っているのかもしれない。
取材記事 長谷川竜人