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吹屋の紅だるま製作記

柚子胡椒。柚子の皮と唐辛子と塩を混ぜて作る薬味で、九州地方が発祥の特産品である。胡椒と聞くと、スパイスを想像させるので、コショウが入っていると勘違いされるが、実際は唐辛子のことを胡椒と言うんだとか。

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作るのはいたって簡単。柚子の皮をむき、唐辛子と混ぜて塩を加えてミキサーすれば完成。誰にでもできるものだが、なかなか調味料を作るという習慣もないので、買ったほうが安くて美味しい。ただ、市販品も塩辛いものや風味がないものがあるので、美味しい柚子胡椒に出会うには少しコツがいる。

美味しい柚子胡椒の見分け方は、生産者ラベルを見て原材料の一番頭に柚子皮が表示されていて、次いで唐辛子、最後に食塩が表示されているものが、風味が強く辛くない可能性が高い。入っている材料順に表示がされるので、食塩が頭の方に来ると塩辛い可能性がある。

ここからは宣伝になるのだが、筆者も3年前から地元の青年団と一緒に吹屋地区で柚子胡椒の生産に取り組んだ。なぜ柚子胡椒にしたかと言うと、集会の時に出された柚子胡椒がとても美味しかったというシンプルな理由だった。

隣町の生産者にレシピを聞きに行くと、「教えてもいいけど大変だぞ」とダンディなおじさんがニヤリと笑った。「やれるもんならやってみろ!」そう言っているような気がした。その時は美味しい柚子胡椒で吹屋の名物にしてやる!!とやる気しかなかった。

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実際に取り組んでみると、おじさんの言っていたことが良く分かった。
唐辛子は一つ一つ手作業でヘタをとる、爪の中に辛味成分が染み込んでヒリヒリする。手を洗ってもお風呂に入っても、布団に入っても翌日になっても火傷のような痛みは取れることはなかった。

お土産にするなら数千個の唐辛子のヘタをとる。林業や農業、地元でバリバリ働く屈強な男連中が黙々とヘタを取る。10分も持たなかった。真っ赤に熟した唐辛子を持つ屈強な男の手はいつの間にか銀色のビールに変わっていた。

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ヘタを取り終えた唐辛子は少量の塩を加え、ミキサーにかけて細かくする。ほろ酔いで上機嫌のメンバーが家庭用ミキサーへガツガツ唐辛子を投入して砕いていた。
しかし、そんな朗らかな空気はミキサーのスイッチを入れた途端に壊された。喉を刺すような痛みと止まらないくしゃみ。昔、社員旅行で行ったホノルルで催涙スプレーをかけられたことを思い出した。

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柚子は柚子で大変な作業だ。風味を守るために柚子の皮のみを使用し、白い部分は苦味となるため一切使用しない。
一つ一つ、手作業で柚子の皮を剥いていく。一つの柚子から取れる皮材料はたった数グラム。もし、特産品で成功するには永遠と柚子の皮を剥く作業が待っている。
「柚子胡椒は買ったほうがいい」と、死ぬ間際の遺言にしようかと思う。

完成した唐辛子ペーストは冷凍して、収穫時期がずれるため、後日作られた柚子ペーストと混ぜ合わせる。私はこの瞬間が好きだ。赤と黄色、これまで別々の世界を歩んで来た二人が一緒になって、少しの塩が加わり新しい味を生み出す。柚子胡椒はまさに人生だなと、ひとり誰もいない夜中の加工場でしんみりペーストを眺めている。

最初は美味しいで始めた取り組みも、片手のビールはなくなり、今では本気と根気で美味しさを追求して作り続けている。幸い、みなさんには美味しいと好評をいただいて生産量も増やすことができた。

なんでダルマなの?と聞かれることがたまにある。
柚子胡椒で売り出しても、きっと数多くの商品に埋もれてしまう。それより、何かインパクトのあるものをと考えていたときに、丸い瓶の形がダルマに似ているとアドバイスをもらったことがきっかけだった。
縁起がよく、年末年始に生産できることもあったので、吹屋を繁栄に導く願いを込めて「紅だるま」と名付けた。

ちょうどその時、冷蔵庫に貼ってあったピオーネのちらしを見た。そこには神様を模したキャラクターが楽しそうにブドウをとっているイラストだった。その瞬間、この人に作ってもらいたい!!そう思った。その足でたぶん高梁で一番交友関係が広い、ピオーネの生産者の方に電話し、デザイナー「COCHAE コチャエ」さんを紹介してもらった。

http://www.cochae.com/ cochae HP

COCHAEさんは“あそびのデザイン”をテーマに活動する軸原ヨウスケさん、武田美貴さんによる デザイン・ユニット。紅だるまは岡山でかつて作られていたダルマをモチーフに作られていて、その表情はインパクト抜群である。今年は新たに箱を制作し、その細部にも様々な楽しめる工夫がされている。実際にお店に並べてみると、すごい存在感で様々な年代の人が足を止めてくれる。
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吹屋の発展と繁栄の願いを込めた吹屋の紅だるま。今年も美味しくできました。

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