自宅でもんじゃ焼き用のキャベツを刻んでいる時ふと思った。
HPT(パラダイス高梁)、筆者食べてばかりじゃない?
VEGEベジ丼にゆべし、猿せんべい松原の手打ちそばその他。食べてばかりである。
これはいけん。いや、もちろんおいしいものを紹介する情報は大切だし、そもそも筆者だって食事は好きだしグルメサイトは参考にするし。しかしそれらは筆者が書きたいものとは方向性を異にしている。
愛でたい。何かこう、可憐なもの、清廉なものを風流人たる筆者は心の底から愛でてみたい。食うだけじゃだめなのだ。貴く美しくありたいのだ。
さりとて打開策がある訳でもなし。どうしたものか。
悶々としていても仕方がないので外へ出た。あてもなく車を時速四十キロ(安全第一)でかっ飛ばしていると松原町・陣山周辺で妙な匂いが鼻をつく。車を止める。
この前の飲み会のゴミが車に積みっぱなしであった。
めげる。気持ちも萎える。それで済めばまだ良いが、なんだか気付いた途端に臭いが強くなったような気がする。もう呼吸もままならない。うげあ。めまいが。
でもその時、ゴミではない、別の匂いを嗅覚が感知した。なんだこの香りは。
匂いに導かれて目の前の坂を登ると、そこは丘。広がっていたのは一面の花畑。
無数の白い花弁が風に吹かれて揺れている。その度に独特の芳香が鼻腔を撫ぜる。
すごいきれいである。こんな所があったなんて筆者、知らなかった。
花畑は、不自然に一部の花が刈り取られていた。
近付いてみるとそれは遊歩道。自由に歩き回れるように道が作られている。さっそく中に入って花畑にあそぶ。
これは良い気分である。できることなら白いワンピースに麦わら帽子でも被って、不必要にくるくる回ったりころころ笑い声をあげたりしながら美少女のように遊びたい。残念ながら筆者は美少女ではないため走り回って遊ぶ。
一通り楽しんだところで丘の上にテントが設営されていることに気が付いた。なんであろうあれは。
テントの中ではそばが茹でられていた。むむ。また食べ物か。筆者は心の中で構えを取った。孫悟空(カカロット)が初めてベジータと対峙した際に取ったものと同じ構えだ。
休憩している人に話を聞くと、今日は花見会らしい。観賞するはもちろん眼前に広がる月か雪かと見まがうばかりの花弁の群れである。
それで遊びに来たお客さんに、手打ちそばを振る舞っているのだという。
筆者のお腹がぐるぐる凶暴なうなり声を上げだした。遊歩道を走り回ったせいか。目の前では沸騰した釜の中にそばが次々投げ込まれてゆく。ぐつぐつ音を立てるあの湯はもはやただの湯でない。そば湯である。
知っている。地元産ソバを使用している手打ちそばなのだ。つゆも自家製、やまびこ市場でも月一くらいで振る舞われる、あの筆者も大好きなそばなのだ。
だがだめだ。今日は花を愛でるのだ。食べてしまったらまたそばの生地、もとい記事をものしてしまう。
でもお腹も空く。だめだだめだ。
テントにはそばのほかにも取れたての野菜や桑の実が並んでいる。
桑の実?なんだそれは。桑ってあの桑?食べられるの?筆者は食べた経験のない食物に得も言われぬ魅力を感じてしまう。もうがまんならぬ。少しなら食べても良かろう。記事にせねば良いのだ。なあに、どうということはない。桑の実に盛りそばの一杯や二杯くらい・・・・・・
「だめだぁぁぁぁぁ」
魂の叫びであった。そうだ。筆者は確かに食事が好きだ。だがそれ以上に大切なことがある。筆者はHPTを良い記事にしたいのだ。食欲に負ける訳にはいかぬのだ。
今回の主役はあくまでこの花畑なのだ。
筆者は更に地元の人への取材を続けた。空腹のはずだがもうひもじさは霧消していた。身体中を満たす充足感があった。
「・・・という訳で、この遊歩道も我々、地元の者が作ったんだよ」
「へえー。そうなんですか。僕もさっき入りました」
「そうかいそうかい」
「きれいですよねえ。そういえばこれ、なんていう花なんですか?」
筆者の問いに地元の人はいっしゅん怪訝な表情をして、
「え、これ?花畑のこれ?知らなかったの?」
これは、
そばの花だよ。
その言葉を聞いた筆者がその場に倒れ伏したのは空腹だけのためではない。