宇治雑穀研究会の取り組み

以前紹介した宇治町の雑穀研究会(以下、研究会)に新たな動きがあったらしい。さっそく話を聞いてきた。

秋の宇治町では既に麦の種まきの準備が進められていた。この間までたわわに実っていた稲穂が刈り取られ、いささか殺風景にも見えるが、これから初夏にかけて、もち麦は生長してゆくのである。

さてここで、そもそももち麦とは何なのか、前回のおさらいを兼ねて簡単に紹介したい。
もち麦とは雑穀の一種で、主に米の炊飯時、一緒に炊いて食べられる(他に、粉を利用した菓子、パンなども宇治町では親しまれている)。食物繊維が豊富で、一説によれば茶碗一杯のもち麦ご飯にはレタス半個分の食物繊維が含まれているという。昨今、テレビ等のメディアでも健康食品・ダイエット食品として紹介され全国的なブームを引き起こしている。
特に、宇治町で栽培されているもち麦は「きらりもち」という非常に珍しい品種で、β-グルカンという水溶性食物繊維が通常のもち麦と比較して2倍含まれているなど、より健康効果が期待できるのである。

宇治雑穀研究会が販売しているもち麦。右は粉末状に加工したもの。

このきらりもちの栽培、販売、六次化商品の開発を中心に活動している雑穀研究会だが、7月28日をもって一般社団法人化を果たした。もちろん社団法人化することで会の活動そのものの幅が広がることが予想できるが、具体的には、酒類の販売許可を得ることがその目的の一つであるという。

雑穀研究会では、耕作放棄地を開墾してもち麦畑に利用している。

酒類といえば、前回の記事では研究会が試作をしているもち麦地ビールを紹介した。この地ビールのプロジェクトが進行中というのである。
もち麦地ビールについても復習しておきたい。
もともと6次化商品の開発には前向きだった雑穀研究会だが、会員の中から「もち麦でビールが造れないのか」と声が挙がったことがきっかけで試作が始まった。県内のビール醸造会社に委託して200リットルが試作され、完成後の試飲会で軒並み好評を得たことで、商品化の話が動き出した。

試作したもち麦地ビール。

 

試飲会の様子

評価されているのは味だけではない。調査の結果、きらりもちの特長の一つであるβ-グルカンが、ビールの状態になっても残っていることが判明したのだ。健康効果が期待されるビールとしてPRができる可能性がある。

完成すれば高梁市では初めての地ビールである。市内外から注目は集まり、期待は高まった。
しかし、地ビール完成・販売までの道は遠かった。
上記の酒類販売許可の取得もハードルの一つだ。現在、研究会の会員は酒類販売の資格に関する各種講習会に出席。また、会全体でも販売許可を取得するための作業が進められている。年内に小売、卸売両方の許可を得る予定だ。忘年会シーズンまでの販売開始を目指している。

もちろん、許可だけ取得したところで、肝心のビールがなければ話にならないが、ビールについても、昨年度からパワーアップしている。
昨年度の試作品は、パック販売用のもち麦と共通のパッケージを流用していたが、今年度は専門のデザイナーにデザインを依頼。既に各方面で活躍しているだけでなく、これまでにも岡山・高梁の土産品のデザインを手がけていることから、「この人なら」と依頼した。会員とデザイナー、双方顔を合わせての打合せを重ね、消費者に手にとってもらえるだけでなく、宇治町の魅力が伝わるデザインを模索している。

実は、既にデザインの草案ができているということでこっそり見せてもらった。かわいらしく、つい手にとってみたくなるデザインである。それでいて宇治町ともしっかり関連している。これは店頭で見つけるのが楽しみである。

もち麦の収穫の様子。これがビールや、その他加工食品に変わってゆく。

販売開始の暁には、市内各飲食店、土産品を扱う商店のほか、市外、県外への進出も目指している。
事業として定着すれば宇治町だけでなく、高梁市の経済を支える新たなコンテンツにもなり得るかもしれない。
しかし、「商売だけが目的じゃない」研究会会員の一人は言う。
「もち麦の栽培・販売が町民の生きがいに繋がれば。地ビールも宇治町の新しい名物になって、町民が喜んでくれたら」
研究会がもち麦を栽培している畑の大部分は、もともとは耕作放棄地として荒れ果てていた畑を開墾・再利用したものである。研究会の活動が地域活性化に繋がっているのである。
もち麦地ビールについては、今後も続報が入り次第お伝えしたい。